ねえ
あのこ
いくらで買ったの?
いくらあったら
あのこを自由に
させてくれるの?
「お前があいつを自由にしろって言うのなら
そうしてもいいよ
金なんか要らない
でも お前が
その分の責めを負う事になる
それでもいいのか?」
いいよ
いいんだ
あのこが自由になるなら
それでいい
違うよ
あのこのためじゃない
あのこは 俺なんだ
だから
これは俺のための
嬉し涙
・・・・・・・・
警察署の
死体安置室
ぎぃぃぃ と 不気味な音で扉は軋んだ
地下室の天井近くの小さな窓から
誇りっぽい部屋へと光が指していて
それは
真っ白なシーツを 照らしていた
ゆっくりと
白い布をかぶった
名もない死体に近づく
ごつ ごつ と ブーツが床を打つ音が
驚くほど響いた
係りの人間が
死体の顔にかけられていた布を
何の感情もなく
するっと取った
そこには
俺が犯したあのこ
俺が自由にした あのこ
どうして?
なんでだよ
なんでこんな風になっちゃうんだよ
やっと自由になったんじゃないか!
なんでだよ!!
馬鹿かお前!
なにやってんだよ!
せっかく
せっかく・・・
始まったばっかりじゃないか・・・
彼女の 薄茶色の乳首には
俺が開けた右側のピアスだけではなく
左側にも ピアスがついていて
そのふたつはチェーンで結ばれていた
そして
よく見ると そのチェーンに
シルバーの 鍵のモチーフが通されていた
俺にくれるつもりだった
なぜかそうすぐに理解した
俺が開けた傷と
自分で開けた傷を
鎖でつないで
その間に通せば
絶対に亡くさない
俺に届くことがわかっていて
そうしたのだ
「ばかだな・・・なんで自由になってまで
痛い思いなんかすんだよ・・・
これ もらってもいいの?
俺に くれるの?」
本当に
馬鹿な女だ
彼女の体は細かい傷でいっぱいだった
でも
おそらく彼女は
あの後誰にも体を売ったりしていない
自分で客を探せるような強い女じゃない
自分でしたのだ
痛みが欲しくて
自由が怖くて
罰が欲しくて
でも自由の中には
罰はなくて
自分で自分を切り裂いた
そして俺に形見を確実に残せる方法で
死んだのだ
あげるよ ふふ
彼女は目を瞑ったまま
見たこともないような安らかな顔で言った
ばかなおんな
お前は俺だったのに
羽なんかなくたって
何度だって
飛ばせてやれたのに
真っ白い雲の間を縫って
清廉潔白の空を
飛ばせてやれたのに
白すぎる顔
とても綺麗だった
俺は彼女の髪を ひと櫛 さらりと撫でる
髪はもう ぱりぱりに乾いてしまっていた
洗ってあげようか?
俺がそう言うと彼女は
ううん いいの
と言った
だいじょうぶ
もうきれいになんか しなくてもいいんだもの
途端に
立っていられないほど苦しくなって
俺は
早足でブーツをごつごつと鳴らしてその部屋を出ると
安置室の前のリノリウムの廊下に
胃の中のものを全部吐いた
涙と鼻水と吐しゃ物で
髪も顔もぐしゃぐしゃになった
そうだね
もう
きれいになんか
しなくたって
いいものね
ゆっくりおやすみ
まりこ
たぶん
きっと
愛していた
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