2010年01月07日

玲子〜同一存在〜

husigi.jpg




ねえ

あのこ

いくらで買ったの?

いくらあったら

あのこを自由に

させてくれるの?

「お前があいつを自由にしろって言うのなら

そうしてもいいよ

金なんか要らない

でも お前が 

その分の責めを負う事になる

それでもいいのか?」

いいよ

いいんだ

あのこが自由になるなら

それでいい





違うよ

あのこのためじゃない

あのこは 俺なんだ

だから

これは俺のための

嬉し涙






・・・・・・・・


警察署の

死体安置室

ぎぃぃぃ と 不気味な音で扉は軋んだ

地下室の天井近くの小さな窓から

誇りっぽい部屋へと光が指していて

それは

真っ白なシーツを 照らしていた



ゆっくりと

白い布をかぶった

名もない死体に近づく

ごつ ごつ と ブーツが床を打つ音が

驚くほど響いた



係りの人間が

死体の顔にかけられていた布を

何の感情もなく

するっと取った


そこには

俺が犯したあのこ


俺が自由にした あのこ


どうして?

なんでだよ

なんでこんな風になっちゃうんだよ


やっと自由になったんじゃないか!

なんでだよ!!

馬鹿かお前!

なにやってんだよ!

せっかく

せっかく・・・

始まったばっかりじゃないか・・・



彼女の 薄茶色の乳首には

俺が開けた右側のピアスだけではなく

左側にも ピアスがついていて

そのふたつはチェーンで結ばれていた

そして

よく見ると そのチェーンに

シルバーの 鍵のモチーフが通されていた





俺にくれるつもりだった

なぜかそうすぐに理解した


俺が開けた傷と

自分で開けた傷を

鎖でつないで

その間に通せば

絶対に亡くさない


俺に届くことがわかっていて

そうしたのだ



「ばかだな・・・なんで自由になってまで

痛い思いなんかすんだよ・・・

これ もらってもいいの?

俺に くれるの?」


本当に

馬鹿な女だ


彼女の体は細かい傷でいっぱいだった

でも

おそらく彼女は

あの後誰にも体を売ったりしていない

自分で客を探せるような強い女じゃない



自分でしたのだ


痛みが欲しくて

自由が怖くて

罰が欲しくて

でも自由の中には

罰はなくて

自分で自分を切り裂いた




そして俺に形見を確実に残せる方法で

死んだのだ



あげるよ ふふ

彼女は目を瞑ったまま

見たこともないような安らかな顔で言った



ばかなおんな

お前は俺だったのに

羽なんかなくたって

何度だって

飛ばせてやれたのに


真っ白い雲の間を縫って

清廉潔白の空を

飛ばせてやれたのに


白すぎる顔

とても綺麗だった


俺は彼女の髪を ひと櫛 さらりと撫でる

髪はもう ぱりぱりに乾いてしまっていた


洗ってあげようか?


俺がそう言うと彼女は

ううん いいの

と言った


だいじょうぶ

もうきれいになんか しなくてもいいんだもの






途端に

立っていられないほど苦しくなって


俺は

早足でブーツをごつごつと鳴らしてその部屋を出ると

安置室の前のリノリウムの廊下に

胃の中のものを全部吐いた


涙と鼻水と吐しゃ物で

髪も顔もぐしゃぐしゃになった



そうだね

もう

きれいになんか

しなくたって

いいものね


ゆっくりおやすみ

まりこ


たぶん

きっと

愛していた




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2010年01月04日

玲子〜愛憎〜

「お前 口でするときどうしてそんな目でいつも見上げてくるんだ?

内面はマゾヒストのくせに お前のその目 いつも 

ぞっとするほどサディスティックなんだよ ほら 観てごらん鏡で」

男は 口でペニスに奉仕している俺の顔を鏡に映して

俺に見せた


俺が世界で一番憎んでいる人間が 男の性器を口にふくんでしゃぶりついている光景が

そこには映っていた

ざまあみろ

そうやって性玩具みたいに 人格も何もかも亡くして ただしゃぶるだけの人形になって

どんどん堕ちればいいんだ

お前のせいで俺は

お前のその顔と瓜二つに生まれたという理由だけで俺は

愛する女にずっと憎まれ続けてきたのだ


お前が生きていようと死んでいようと

玲子の中では 関係ないことで

お前と瓜二つの俺を憎むことでしか

バランスを保てないのだ

だから俺はどんな思いをしてでも

玲子の痛みを和らげることにこの身体を使うと決めた

この顔に罪があるのなら

それは俺の罪なのだから


毎晩毎晩 玲子は俺を 俺の名前で呼ばず

俺と同じ顔をしていた、失った恋人の名前で呼んだ


俺は彼の身代わりになって

玲子の憎しみと復讐を

あらゆる方法でこの身体に焼き付けられた


愛していない

愛していない と 何度もささやかれ

お前なんて愛していないから

金持ちの男色家に売ることにしたのよ

と愉快そうに言われ


そして今

俺はその金持ちのペットとして

罰を受け続けている

玲子がそれで少しでも楽になるなら

俺はどんな目にあったって構わないのだが

たちの悪いことに玲子は

俺と瓜二つの恋人を

未だ深く愛していた


俺は俺の顔に向かってにやりと憎しみを光らせて

すぐに目を背けた

「いい顔をしている 俺はお前のその顔を見てるだけで

すごくぞくぞくするんだよ

もう離さない

お前は俺のものだ

玲子から権利を買ったんだよ

だからもう

お前はずっと俺のものだ」


玲子は俺を売った

あんなに 俺を

毎晩 痛めつけて

絶対に許さない と

あなたは一生私の玩具なのよ と

言っていたのに

だから俺は

どんな目に遭おうと 愛する女と一生離れなくて済むのだと

安堵すらしていたのに


玲子はいとも簡単に 

金で俺を売った


要らないのならどうして殺してくれないのか

分かってるよ

ずっと生かし続けて

苦しませたいんだろう?

それがお前の復讐なんだろう?


いいさ


それでお前が

少しでも楽になれるなら


でも

会いたいよ玲子

会いたい・・・



俺のこの惨めな姿を見て

楽になってくれよ


目を逸らさないでくれよ


お前のためにやってることなんだから

お前が見てなかったら

何の意味もないのに・・・


不意に男の射精で意識が戻された

ごぼっ

っぐ

「零すなっていつも言っているだろう?

ほら お口の端についているのも全部舐めなさい」


俺は黙って男の言うとおりにした


こんなこと

玲子が見ていないなら

何の意味もないのに


どうして

玲子

もう興味がなくなったのか?

捨てることでお前の復讐は完結したのか?

俺はもう

必要ないの?


いやだ

玲子


男の手が俺の穴を解し始めていた


ぬるりとした人口体液が俺を解していく感覚に

どうしようもなく快感を覚えてしまう




ふっ

「声 我慢するんじゃない

聞かせるのも仕事だよ?分かるね 

いい子だから 身体の力を全部抜いてごらん

今夜は何度でもいっていいよ

お前のいくとこが見たい」

男はそう言うとぬるりと俺の中に二本束ねた指を入れた

ふぅっ あぁぁああ


いやだ

玲子に怒られる

玩具は射精なんかしたら駄目だって

いつも そう 叱られた


いやだ

やめて

許して

ああっ


し ば って くだっ さい・・・

「どこを?」

あ ここ ペニスを・・・

「お前本当に 酷いマゾに仕込まれたんだな

いかないように縛ることを強請るなんて

かわいそうに・・・

わかったよ

縛ってやる

でも手加減なんてしてやらないからな

お前が勝手にいかないと決めたんだ

俺はいかせたくてやってるんだから

どんなに苦しがってもドライで何度もいかせるよ?

それでもいいのか?」

こくり と 声を出さずに頷く


それから男は朝まで俺を

あらゆる方法で絶頂まで追い詰めた

俺は性器を戒められ 射精のないドライオーガズムを何度も経験し

朝にはもう

声も涙も枯れてしまっていた










posted by z at 02:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 官能小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月03日

玲子〜支配〜 VOL.2

ああ

あぁああ

うれ しい です

んっ


「そう もっと欲しいね?

もっと気持ちよくなりたいんだね?」


あっ

あああ

も っと

くだ さい


あぅぅんくっ


「いいよ

でも俺も我慢出来なくなってきちゃった

今度はお口の中愛してあげような」

そう言うと男は俺の口元に性器を宛がった


舌先でぺろりと舐めると

「ふふ かわいいな

もっとたくさん舐めていいんだよ?

好きなだけ舐めなさい

びしょびしょにして

お前の中に 入れやすくしてごらん」

俺は唇全体で彼のペニスを咥え込むと

両手を頭上で拘束されていて不自由な身体を揺らして

手を使わずに唇だけで男を扱いた


ふぅ

ふぐ

んんん


「ん?初めてなのに上手なんだね?

本当は男も好きなんじゃないのか?ふふふ

かわいい子だ 俺のものにしようかな

玲子 いいだろ?」


闇の中で玲子が

くすくすと笑っているのが分かる

俺は売られてしまうのだろうか


玲子

嫌だ

どうして?

どうしてだよ

俺は毎晩玲子のこと

一生懸命愛してるのに

こんな変態親父に俺を売るつもりなの?

玲子

俺だけなのに

ねえ

この顔してるのは世界で俺だけだよ?

他に身代わりなんかいないんだよ?

俺を捨てたら

玲子の大事な想い出ももう

触れられなくなるんだよ?

それなのに俺を捨てるのか

玲子

そんなことが出来るのか?


じゅぶ じゅぶ という音を立てて

口で男のペニスを扱きながら

俺はそういうことをずっと考えていた


あぁ

また涙が出てしまいそうだ

でも

イラマチオのせいにすればいいか・・・


俺は男を根元まで咥え込んだ

男の陰毛が顔面をくすぐるくらい喉の奥まで受け入れると

唾液が粘性を増してきて

異物を排泄しようと喉は裏返る

その裏返った喉の奥にペニスを当てるのが

男は好きなようだった


ぐほっ

んぐっ



はぁぁ

はぁぁ

っぐっ

んん


射精

まだかなあ

もう疲れた

玲子

玲子

俺もう疲れた


要らないなら

要らないって言ってくれたら



こんなやつに売らなくたって

ちゃんと出て行くのにな・・・・




玲子は俺のこと要らないの?



身代わりも勤まらないほど だめかな?

ごめんね玲子

ごめんね

俺何にも

玲子を救ってあげられない・・・

どんなに身体痛めつけたって

意味なんかないね

玲子が救われないなら・・


posted by z at 22:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 官能小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

玲子〜支配〜

「今日はここは触ってあげないからね」

見知らぬ男が俺の根元を縛り上げて

そう言った


「今日は こっち

こっちだけでいける様に仕込んでやる

気持ちいいよ

ペニスだけじゃいけなくなるくらい嵌る」

言いながら男は俺の排泄器官を指で撫でた


びくっ

と身体を震わせる

目隠しをされていると

触覚だけがやたらと冴えてくる


好きにしてくれ

俺は

玲子が満足してくれるのなら

どんなことをされたって構わない


目隠しをされていては玲子がどんな顔で俺を見ているのかもわからない

少しだけ寂しかった


こんな醜態を晒している俺でさえ

ちゃんと見ていて欲しいのだな・・・

そう思って軽く鼻を鳴らした



「優しく撫でてるだけで感じてきちゃったか

仕込み甲斐のあるいい子だ

今夜はたっぷり慣らしてあげようね

ぬるぬるした液欲しいか?

ここに

塗りこんで欲しいか?」


あぁぁ

ほ 欲しい です


「何? おねだりは上手にしないと

何をどこに欲しいのかわからないだろ?」

あぁあ



俺の

穴に

ぬるぬるした液を

塗って

ください・・・


「いいこだ」

そう言うとすぐさま男は俺の肛門に

どろっとした液体を垂らした


冷たさに身体が跳ねる



すぐにその濃厚な液体に

なんだか救われるような気がして

恐怖が少しずつ抜けていくのを感じる


こんなに濡らしてもらえるなら

痛みを感じずに済むかも知れない


薄汚い快感への微かな期待を

抑えられない


毎夜与えられる罰の中で

快楽を探すことが出来なければ

俺はとっくに発狂していただろう




玲子

楽しい?


ねえ

俺ね

玲子が楽しいなら

どんなことされたっていいよ


玲子が

喜んでくれるなら

誰に何をされたっていいよ


必ず縛られて

玲子の身体に触れさせてもらえなくても


玲子の目の前で 男に弄ばれても


玲子が見ていて楽しいなら

俺は耐えられるよ


だから玲子

信じて

嘘じゃないって

信じてくれ・・・


男の指が俺の中にゆっくりと侵入してきて

くちゅっ くちゅっ

という音を立て始める


あっ

あぁあ

や・・・

あ・・・


「いや?気持ちよくない?

嘘ついてもすぐ分かるよ

こっちがびくびく震えて

もう先からお漏らししてる

気持ちいいんだろ?

いやなんて言ったらだめだろう

嬉しいって言わなくちゃ」




posted by z at 22:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 官能小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

官能小説 「鳴き砂」 2007年07月20日


絵に描いたような退廃に溺れて

気のフレたSexばかりを求める俺を

君がどう思っているかなんて

考えない



「お前なんて愛していないのに なぜそんなに何度もイクんだよ」

そう言うと 女は 鳴き砂のような吐息を漏らした



俺の事なんて憎んで 早く忘れてしまえ というシグナル

何度も何度も 点滅させるが

女は 

それでも全てを受け入れる という偽善的な自己犠牲の信号を

何度も何度も 返してきた



「死んでしまえ 」

俺がもう何度目かも分からなくなったシグナルを発すると

彼女は

あなたが・・・

と言って その先を言う前に 

俺が発しているシグナルを 全て吸い込んでしまいたいというように

息を深く吸い込み 


果てた



あなたが なんだって言うんだ








・・・・・・・・・・・・・・


3年前の夏に

獏も食わぬ性欲 という名の別ブログに載せていたものだ


官能小説レベルだと

ツボとか

テイストとか

ぜんぜん今と変わっていない

いや

官能じゃなくても変わってないか・・・


自分で言うのもなんだが

わりとツボだった・・・



女が最後に何を言おうとしたかを

これを書いた当時は

決めていなかった



あなたが・・・・


あなたが何だって言うんだ?

男はそれを読み取ることができない

そういうことが書きたかったから

あえて答えは自分の中でも用意していなかった




でも今読んで思った


あなたが

本気で死ねって言うなら

何の躊躇もなく死ねる


彼女はそう言いたかったのだ
posted by z at 21:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 官能小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月01日

顔のない月

tuki.jpg




僕の中の月には顔がない

顔も無いのに泣いている





眩暈がするほど晴れた空に

強化ガラスの歪んだアーガイル


そんな声で歌わないでくれ

ここで崩れるわけにはいかないのだ


骨が軋むよう

切なさはぎしぎしと音を立てて

カルシウムを溶かし始める


俺は平気だよ

でも彼女が 

もう枯渇した涙腺を震わせて泣いている









僕はいったいここで何をしてるんだっけ

彼女は再び消え去っていく

彼女は・・・







窓を蹴破って外に出ると

日差しとは不似合いな 刺すような凍った空気



精神性とは逆に膨らみすぎた胸は 彼女を内包している証だ

俺はようやく眠りについた彼女の横顔に話しかける


ゆっくりおやすみ

夜はあまりに長く寒い

俺が代わりをするから


kkkkkkkkkkkkkkkkk


彼女が目覚めてしまわないか心配なくらい

不快な金属音が鳴り響く



大丈夫 大丈夫

心配要らないよ


すぐにふたりきりになれる


もう少し

俺に任せておいで



ふたりきりになると彼女はすぐに泣き出すだろうと思ったが

そうではなかった

驚いたのは

すんなり眠りについてすやすやと寝息を立てていたことだ




泣き疲れて眠る残月に 顔は無い

ただ白く浮かぶ姿が

青い空に 虚しいほど映えている










帰りの切符を買ってもう一度構内から出ると

広場で久々の煙草に火をつける

紙の焦げた匂いと しけた味

だが充分にうまかった



自転車の音がして振り返るが求めている影はそこにはない


ほっとする俺と

眠ったままがっかりする彼女



俺たちはあの頃と違って

望むと望まざるとに拘わらず

強くなってしまったのだ


今夜はふたりきりで

ロマンティックな感傷に溺れようと 

風呂上りビールを楽しみにしている親父程度には期待していたが


どうやらそれも

もうないようだ


クリスマス前に人はなぜか失恋をする

本当は孤独に過ごす方が気楽だということを

潜在意識が知っているからかもしれない




俺が犯してきた罪に比べてあまりに軽すぎた痛み


もう一度

いや 何度でも

繰り返し 罰を受けねばならぬ と 

本能が言っていた











僕はいったいここで何をしているんだっけ?

彼女は消え去ろうとしている

彼女は・・・・


















ラスト三行のみ レディオヘッドの名曲の歌詞を拝借し 

僕なりの意訳をした

この曲を生み出した彼らと

それを僕に教えてくれた友人に深く感謝する




posted by z at 15:26| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

白昼夢

ao.jpg


全てが新しくなるのです


ばらばらに切り裂かれた身体で地面に転がるその肉片は言った

僕の疲弊した神経細胞は

それを言葉に変換することが出来ず

身体は枯葉のように揺れ

かろうじてそれに繋がるのみだ


すべて

が何かを捉えられない


肉片を憐れそうな眼で一瞥すると

僕は交差点の盲人用信号音で醒めた
posted by z at 15:19| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

天使の梯子

君が

自分がどんなに恵まれているかということに気付けないのは

君の罪ではない


僕が

走れない足を疎んだことがあっても

歩けることに感謝できないのと一緒だ


君はとても綺麗だよ

奇跡が起きたらもう一度君に

愛していると伝えたかった

でも

奇跡というのはそう簡単に起きないから奇跡なのだ


僕はもう二度と

あの頃のような歌声で愛を歌う事が出来ないだろう


君に涙を流させる歌を

美しく歌うことは出来ないだろう



とても悔しい



でも僕が今までしてきた馬鹿げた自傷行為の代償を

僕は引き受けなきゃならない


後悔があるとするなら唯一

柔らかい愛を謡わなかったことだ


君は僕をもう忘れかけている

僕は君を嫌というほど覚えている


その美しい瞳がぞっとするほど

僕を見据えていた時のあの不安も


ふと前髪に触れてくれた時に感じたあの

絞られるような胸の疼きも


僕は嫌というほど

忘れることなんか出来やしないだろう


君の役に立てることが

何かひとつでもあって欲しかった


翼がないと泣くなら

僕のを使うといい

僕はもういかなくちゃ


君のいない処へ


もう少し寂しそうにしてくれないか

嘘でもいいから

最後にもう一度

そばにいてもいいと言ってくれないか


そんなに子供みたいな顔して無邪気に微笑まないで

とても綺麗だよ苦しいくらい


さぁもう時間だ

あとはひとりで歩けるね?

名残惜しいふりなんていらないから

ほら 寒いからもう行きなさい


可愛いなそんな風に演技までしてくれるなんて




汽車が出てしまうからと嘘をついて

崩れる前に君に背を向けた




君はとても綺麗だよ

奇跡が起きたら君に

愛していると伝えたかった



酸素を吸い込むと肺が軋む

君の匂いはもう身体から

消え去ろうとしていた
posted by z at 15:02| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

温かな海

「目を閉じて」

君の手が

そっと僕の瞼の上に置かれて


唇が 手のひらが 

少しずつ温度の中に溶けて


許されていた空が落ちてくる


ねぇどうして

君は声を殺して

僕なんかを抱くんだ

そんなに柔らかく


僕はただ

君の海の中で

君じゃない女を抱くのに


深くまで

深くまで

君は僕を

泳がせた


温かな

温かな

君は僕を

休ませた


夢中で溶け合うから

何も要らなくて

羊水の永遠が

僕をもう一度


きれいなものに

きれいなものに

生まれていくように


温かく

温かく

許してくれたんだ



あぁ


あぁ


もうすぐ朝がくる
posted by z at 14:49| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

青い翼




躍る心に反して弱る身体

急かす体内時計とゆっくりしか進まない足を

宥めながらその時を待つ

自由は不自由の中にあり

僕に出来ることはあまりにも限られていた

温かいベッドなんかより

必要なのは君だけだ

いっそのこと君にすべてを

僕のすべてを托して消え去りたい

僕が遠くに来たのは

死に際を見せずに逝く猫と同じ

不思議とちっとも怖くはないよ

向こうには知り合いもいるしね

何も成さずに終えるとしても

後悔などしない

何故ならそんなことは最初から

決まっていたことなんだもの

僕にはこの三十年で

棄てる事を躊躇う程の何ひとつも

手に入れられなかったのだ

シンプルな人生は身軽で

だから僕にはこれ以上

何も望みはない

ただひとつお願いがある

僕のことなんかすぐに

トイレに流して忘れて

でも感触を思い出して

温度を思い出して

そして君の好きなものを

手に入れる事を我儘と呼ばないでいられるよう

強くなり美しくなり

そのまま変わらずにいて欲しい


我慢なんか出来やしないよ

言いたいことを飲み込むくらいなら

もう声なんか要らないさ



さようなら僕の

もうひとつの青い翼


hikari.jpg

posted by z at 14:42| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする